「脱原発・東電株主運動ニュース」より転載いたします。一番最後に10月31日に東電刑事訴訟支援団と共催で行われたオンラインセミナーをアップしております。併せてごらんください。
東電株主代表訴訟で裁判所が福島第一原発の現地調査を実施
1 何が行われたのか
さる10月29日、東電株主代表訴訟を審理している東京地裁民事8部(朝倉佳秀裁判長)は、3・11後、裁判所として初めて、現地調査のために福島第一原発の現地に立ち入り、現地進行協議を実施しました。
この手続きは、実質的には検証と同様の目的で、現地で進行協議を行い、裁判所の見たいものを見分しますが、その経過について、裁判所の検証調書は作成しないで、原告あるいは被告側が検証調書に代わる報告を作成して、裁判所に提出し、裁判の判断の材料とするものです。
建物の建築瑕疵が争われる事件では、現在は検証が行われることはまれで、裁判所が現地進行協議を実施し、これにもとづいて当事者が報告書を作成し、裁判所の判断が行われています。
今回も、裁判所と原告側の指示で撮影された現況写真を使い、原告側で進行協議報告書を作成する予定となっています。
2 現地調査はどのようにして実現したのか
我々は、現地調査・検証を一貫して求めてきました。今の裁判官の構成となり、証人調べと被告尋問が実施されることとなった段階で、現地調査の実施の要否は、津波の予見可能性と結果回避措置に関する4人の専門家証人を取り調べたのちに判断すると、宣言されました。
地震調査研究推進本部の長期評価の信頼性について元気象庁地震火山部長の濱田信生氏、貞観の津波について産総研の岡村行信氏の証人尋問がなされ、裁判所としては、10メートル盤を大きく超える津波について予見することは可能であり、津波対策は必要であったという心証を持ったものと思われます。
続いて、津波対策としてどのような工事が可能で、どれくらいの期間で実施できるかについて、元東芝の技術者である渡辺敦雄氏と後藤政志氏の証人尋問がなされ、裁判所による尋問の中で、可能とされていた多くの津波対策の中で、被告らが2008年の段階で決断していれば、工事を完了することができたと思われる、建屋と重要機器室の水密化の対策に裁判所が関心を持っていることが明らかになりました。
そして、証人尋問終了後の進行協議期日において、「現地の状況の図面と写真は証拠として提出されているが、これだけでは現地の状況が十分にわからない。現地の地形や機器の配置、開口部などについて、『立体的』『三次元的』に把握するために、現地進行協議を実施する」とし、原告側に検証場所と検証個所についてプラン提出を求め、他方で、被告補助参加人である東電側に、現実的に可能な現地調査のプランの作成を命じ、その結果として、今回実施された現地進行協議のプランがまとまっていったのでした。
3 裁判所は何を見たのか
1) まず、30メートル盤から1、2、3、4号機を見下ろし、すりばち状の地形を確認しました。この場所は76マイクロシーベルト/hと線量が高く、5分間しか滞在できませんでしたが、爆発でぐにゃぐにゃになった1号機の枠組みや、4号機の使用済み燃料プールを覆う巨大な覆いなどにも圧倒されましたが、なによりも、30メートルの高台を20メートルも掘り下げて敷地にしたことで、著しく津波に脆弱な敷地構造になっていることがわかりました。
2) 続いて、10メートル盤上の通路から、1、2、3、4号機の各タービン建屋と共用プール建屋などの大物搬入口、ルーバー(吸気施設)、コンクリートブロックの開口部などの浸水個所を現地で確認しました。また、事故後に設置されたものという説明でしたが、ルーバーの下側に水の侵入を防ぐための覆いが取り付けられていたり、一部の建屋について水密扉が取り付けられていることが確認されました。さらに、10メートル盤の敷地上に、千島海溝沿いの津波地震に対応するため、高さ数メートルの小規模なものですが、防潮堤が作られていたり、敷地南側の一番津波が高く遡上した個所付近には、石を詰めた土嚢のような簡易防潮堤が事故直後に作られていました。これらの状況によって、とりわけ、津波対策のための水密化対策工事は、容易に、また短期間で実施可能であったことがはっきりとわかりました。また、敷地を見れば、津波の遡上を想定すれば、一見して危険な箇所にあるルーバーやブロック開口部がそのまま放置されていたこと、大物搬入口の下半分にはテロ対策のための強固な防護扉が設置されているが、その下側が開いており、この防護扉を水密構造にしておけば、津波の浸水は確実に防ぐことができたことなどを確認することができました。この点については、裁判官も、図面を手に現地での対象の確認を求め、熱心に質問をされていました。
3) また、原発の1、2、3、4号機は事故による爆発などで事故前とは姿かたちが変わってしまっています。その比較対象のために、5、6号機側の視察も実施しました。1日の行程での私たちの被ばく線量は全員0.01ミリシーベルトでした。
4) さらに、駅の行き帰りに、荒廃した帰還困難区域を見ることができただけでなく、帰還困難となった地域を中心とする、事故による被害の実情についても話すことができました。
我々は、原発の南西に位置する双葉病院、敷地の北方数キロにある浪江町の請戸の浜について、現地進行協議のルートに加えるように求めていました。裁判所は 、被害の過酷さは、原発に求められる安全性の程度と関連することは認めましたが、1日で見て回ることは困難として、このような帰還困難区域の視察は実現できませんでした。そこで原告側で、福島の富岡町、双葉町、大熊町、浪江町、飯舘村などの被害の実態を写真入りでわかりやすくまとめた、
被害状況説明書(甲965・84ページ)を証拠として提出しました。
そして、この説明資料を用いて、時間は30分弱でしたが、双葉病院と請戸の浜で起きた、多くの人命が失われた原発震災の実情、浪江・津島・飯舘の避難時の混乱、避難の遅れによって高い線量の被ばくをした住民がおり、健康被害が懸念されることについてもお話しすることができました。大野駅から原発現地に向かう沿道には多くの朽ち果てた民家がありました。これらを見た後でしたから、私たちの説明について、裁判所は真剣に聞いていただけたものと思います。
4 今後の手続
11月1日、私たちは、最終準備書面(5分冊で、厚さにして20センチくらい)を提出しました。11月30日には、最終口頭弁論が開かれ、結審の見込みです。最終口頭弁論で、この最終準備書面の説明をする予定です。
この裁判に勝ち、東電幹部の責任を明確にすることは、東電刑事裁判の勝利・有罪判決、住民が東電と国の責任を問うている損害賠償訴訟の上告審で、国の責任を確定させることにもつながります。そして、福島事故の責任を明確にすることは、日本で脱原発を実現する一里塚となると思います。
今年の春からの証人調べと被告らの尋問、そして今回の現地調査によって、民事8部の裁判官は自信をもって判決を書けるようになったと思います。福島原発事故の真実と被告らの責任を明らかにするまで、私たちの闘いは続きます。
また、東電刑事裁判の東京高裁における控訴審の審理が11月2日午後に開かれます。ここでも、指定弁護士が申し立てている現地検証の採否が大きな争点となります。
▼10月31日に東電刑事訴訟支援団と共催で行われたオンラインセミナー
「東電株主代表訴訟・福島第一原発現地進行協議の報告」
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