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東電株主代表訴訟第62回口頭弁論の報告

『脱原発・東電株主運動ニュース』No.304より転載いたします。


東電株主代表訴訟が結審
2022年7月13日に判決


被告側が初めて陳述

 11月30日、9年あまり続いた東京電力旧経営陣に対する株主代表訴訟が結審した。この日は最終弁論が行われ、原告側と被告側がそれぞれ90分のプレゼンテーションによる主張のまとめを行った。
 ここで初めて、被告側代理人の主張らしい主張を聞いたように思う。
 これまでは、原告側がプレゼンテーションをすることは何度もあり、裁判官や傍聴人に対して分かりやすく主張の内容を訴えてきたが、被告側がしたのは見たことがなかった。証人尋問と本人尋問を除けば初めて、まとまった主張をしたのが結審の日だった。
 被告側代理人の主張は、原告側と同じ時間とは思えないほど長く感じた。内容がとても薄いのに、時間ばかりかかったということだ。

被告側の主張とは

 被告側主張の要点は次の2点。
 第一に、2002年の地震調査研究推進本部による長期評価には信頼性がなく、津波対策が可能な工学的設計も出来ない程度のものだから、津波評価を土木学会に委託したのは合理的判断であり、当時の知見と認識からは何ら瑕疵のない経営陣の判断だった。
 第二に、仮に津波対策に着手できたとしても、それは東電が津波評価をした2008年以降のことであり、この時に防潮堤などの対策工事を規制機関(原子力安全委員会)に申請しても許可まで2、3年はかかるから、東北地方太平洋沖地震には間に合わなかった。
 被告の代理人と補助参加人(東電)の代理人が主張した内容を文章にまとめるとこれだけだ。
 東電が委託して実施した津波評価により、15.7メートルに達する津波の到来が予想されることが判明し、対策工事を行おうとした矢先に、中越沖地震の影響で柏崎刈羽原発が全機停止したうえ、巨額の復旧費用が予想される中で、東電社内ではコストカットと原発稼働率向上の嵐が吹き荒れていた。それが対策を大幅に遅らせる理由の一つだったのだが、一切言及されることはなかった。
 9年半かけて縷々立証を尽くしてきても、被告側は本人尋問でも肝心なところは「知らない」「聞いていない」「専門家でないから知見が無い」と言い張り、国の評価や自分で委託して実施した津波想定は、「信頼性がない」と切り捨てた。
 この姿勢が生んだものが未曾有の原発震災だったが、この姿勢をこそ問題にすべきなのかもしれない。この体質は、今も何ら変わることがないのだから。

損害賠償請求訴訟では全敗の東電

 このような主張は、損害賠償請求訴訟では全く通用しなかった。責任については全て認定され、判決では損害賠償を命じられてきた。これまで行われてきた損害賠償請求訴訟では、一部で国の責任が認められない例があるものの、東電については全てにおいて責任を免れることはなかった。
 しかし「業務上過失致死傷罪」が問われた刑事裁判では、残念ながら今のところ「無罪」(東京地裁判決)とされている。これは東京高裁で審理が始まったばかりである。

被告側「第三の主張」が登場

 株主代表訴訟は、東電取締役が「業務上過失致死傷罪」に問われた刑事裁判の進行と共に進んできたところがある。
 多くの証拠は刑事裁判において提出、証言されたものだ。それをこの訴訟に移して証拠として採用してきた。
 代理人の「第三の主張」は、刑事裁判と同じ証拠を審理してきたこの訴訟では、結論もまた刑事裁判と同じでなければおかしいというものだ。
 なるほど、そんな「推定無罪」の主張もあるのかと、呆れた。
 刑事裁判は現在、東京高裁で継続していて結論は出ていない。また、根拠としている法律も違う。一方が無罪でも一方が有罪ということもあるし、矛盾はない。そんなことをいいだしたら、損害賠償請求訴訟(民事)で東電は全敗しているのだから、株主代表訴訟でも有罪にならなければおかしいということになる。弁護士の主張とは思えないような内容だ。主張すべき論点が尽きたか、と思ってしまった。

「事故前の目線」の強調

 もう一つ、被告側代理人が強調していたのは「後知恵で評価してはならない。3月11日以前の時点に立ち返って、その当時の目線で見なければならない」という点だ。
 ことごとくに「事故前の目線で見れば」との主張を繰り返していた。
 これは原告側の主張が全て「後知恵のこじつけ」と主張するもので、弁護士の主張とは思えない低次元なものだった。
 被告側と補助参加人の代理人がこれまで、書面を提出しても、口頭での説明をしてこなかった理由がわかる。原告側の主張書面のどこをどう読んだら「後知恵のこじつけ」と読み取れるのか。原告側は細かく時点を区切り、証人の証言も時点を明確にしつつ論じてきたのだが、被告側こそが時点を認識できていないようである。

吉田証言のつまみ食い

 既に故人(2013年7月9日にがんのため死去)となり反論も出来ない福島第一原発元所長の吉田証言を切り取って主張した点には怒りを禁じ得なかった。
 吉田証言では、震災直後のヒアリングで「日本海溝沿いのどこでも起こりえるなどと震災前は誰も主張などしていなかった」と発言している。しかし実際には2002年の長期評価でも、日本海溝沿いのどこでも巨大津波が起こりえることは指摘されていた。その根拠を自ら調べていたのが吉田氏だ。そして対策を怠ったのは、当時原子力設備管理部長であった吉田氏自身だ。自らの失策を思い、そのために甚大な損害を出した経営陣を思い浮かべてなお、そのような主張をした点を拾い上げて、さらに東電経営陣の保身に使うとは、何という恥知らずなと、怒りを感じたのである。
 被告側代理人のこうした主張を聞く前に、木村結さん、浅田正文さん、武藤類子さんの意見陳述があったのは良かったと思う。極めて対照的な内容だった。
 木村さんの陳述は本ニュースで紹介しているので、ぜひ読んで下さい。
(山崎久隆)
DSC_0637@.jpg*終了後の記者会見や報告集会の動画を結審(第26回口頭弁論期日)動画・感想などで見ることができます。また木村さん、浅田さん、武籐さんの陳述書や、弁護士さんたちの力作、全5分冊の最終準備書面も東電株主代表訴訟のウェブサイトで入手できます。ぜひご覧ください。

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